マツコデラックスというネイティブアド

ごきげんよう
天気が変な日が続くが、足元の悪い中満員電車で通勤しなければならない皆さんはモチベーションを保てているだろうか?
もちろん僕のやる気もいい感じに低空飛行をしていますよ。

さて、最近移動していたり、テレビを見たり雑誌を見たりしていると、マツコデラックスとよく目があう。

そう。残暑厳しい中、何故この国の目につく場所の広告に巨漢のオネェがあふれているのだろうか。
「なぁ、、マツコ教えてくれよ。」
一人電車のB3ドア横広告のマツコに問いかけてもむなしく答えは戻ってこない。
確か、ドア横ならユニット視認率(1回の乗車で視認できる範囲の広告を見た人の割合)は50%近くはあるはずだから、この電車に乗ってる多くの人の視界には入るはずだ。
この暑くてジメジメした季節にである。

■21世紀の日本企業にとってマツコデラックスはPRの救世主?!

なぜマツコデラックスが広告にひっぱりだこなのか?という理由を知りたいわけではない。
ここ数年ランキングでも上位に入る抜群の好感度を誇るタレントであり、それに紐づいて広告キャラクターへの起用も増えているとか、ギャラが安いだの高いだの、スキャンダルの心配があるのないのとか、そういう業界的な理由はまぁどっちでもよいのだ。

僕が自分で興味深いなぁと思うのはマツコデラックスが宣伝をする商品になんとなく好感を持ってしまう自分がいることだ。

いろいろ自分の中で分解していくとマツコが宣伝している商品がよさそうに見えてしまうメカニズムは僕に関しては以下の通りだ。

・あれだけ好き嫌いをハッキリというマツコなら自分がくだらないと思うようなものの宣伝はしなさそう=宣伝ではなくリコメンドに感じる

・例え買ってがっかりしても、自分はマツコに「騙された」と文句は言わなそう。=「検討してね!」ではなく「買いなさいよ。」という迫力を感じる

・いろいろな商品やサービスのダメなところや気に入らないところをはっきり普段から発言しているマツコが言ってる宣伝文句は信じてもよさそう。=内容に信憑性を感じる

これはあくまでイメージで正確な事実ではないのは分かっている。だが、広告やPRというのはイメージを持たせるのが役目だからこれはすごいことだと思うのだ。

■マツコデラックスは日本のジェレミークラークソンだ。

このポジションどっかで見たことあるなと思い思い当ったのが、クルマが好きな人には有名なイギリスBBCの伝説的な自動車番組「トップギア」の名物司会者のおっさん、いやオジサンのジェレミークラークソンだ。

このトップギア、ご存じない方に説明すると、一応、新型車のレビューや自動車をテーマにした面白企画をシーズン毎に放映する自動車エンターテイメント番組。
そして売りは、名物司会者のジェレミークラークソンの歯に衣着せぬ辛辣な世界中の自動車に対するレビューだ。
(しかも多くは正論というより本人の趣味と偏見に基づいている)
およそ日本のメーカー広告費に首根っこを押さえられ言いたいことも言えない自動車番組や自動車雑誌がはだしで逃げ出すような無茶苦茶な番組なのである。
当然、しょっちゅう世界中のメーカーはもとより、大使館経由で各国からも怒られているし、日本のメーカーも折角提供した車を燃やされたり(マツダ)、ボロクソ言われすぎて(主にファミリーカーとエコカートヨタも車両を貸出し拒否したりとまぁひどいもんなのだ。
韓国やメキシコ、ASEANなどの車に至っては、、、ここでは話が脱線しすぎるので言及は避けよう。

ご存じの通りこの30年で「英国国営放送」BBCのトップギアが扱う近代以降最大のコンシューマープロダクツである「自動車」の目ぼしいメーカーは女王陛下のお膝元には無くなってしまった。
ジャガーとランドローバーはインドタタ傘下、ロールスロイスとミニは独BMW傘下、ベントレーは独VW傘下、ローバーは潰れてしまった)
しかし、世界中の自動車を自分の好き嫌いをはっきりさせて30年間ボロカスに言ってきたジェレミークラークソンの自動車番組トップギアは世界を制覇した自動車コンテンツになった。

自動車産業は死んでも、自動車に関する「ブランド」と「コンテンツ」と「本音トーク」だけが英国には残ったのだ。

解説が長くなったが、世界中でジェレミークラークソンが「この車は最高だ!」と言ってるのをメーカーへのおべっかで言ってると思う人は居ない。
それは、BBCが広告費で運営されていない国営メディアだからだということより、自分が嫌いな車はすべて容赦なく「rubbish(『ラビッシュ!』ジェレミーの口癖でポンコツ、ゴミ、クズなどの意)」と言ってきたからだし、本当は心底最高だと思ってなかったとしても「正直に言ってる」と思われていれば人は喜ぶし動く。それでいいのだ。
ジェレミーのレビューはどこに芯があるのかわからないニュートラルな意見より遥かに人の心を動かすコンテンツとなっているし、もちろん商品イメージに与える影響も少なくはないだろう。

おなじことはマツコデラックスにも言える。
僕は、マツコデラックスはあれもダメこれもダメな最近の日本のメディアにおいてジェレミークラークソン的ポジションを確立した稀有な存在だと思う。
逆に言えば自分の独断と偏見に基づいて好きなこと言うのはBBCでは「オジサン」でも番組として成立するが、我が国ではその辺の「オジサン」には難しかった。そんなことすればCM終わりにクマのぬいぐるみに置き換えられてきたのだ。
それを、マツコデラックスは「巨漢のオネェ」というもはやどこのカテゴリにも入らないキャラクター設定によりこの国で成立させて見せたのである。

■マツコデラックス起用の広告はネイティブアドだ

クルマの例ばかりで恐縮だが、
かつて、まだ日本に貿易黒字が山のようにあった頃、アメリカからの外圧でトヨタがGMの車を無理やり日本の自社ディーラー網にトヨタブランドで売らせたことがある。
車名を「キャバリエ」と言った。
まぁ、案の定トヨタは販売に苦労し、最後の最後テコ入れに、所ジョージさんをイメージキャラクターに起用したCMを放送した。
これを見て、かのテリー伊藤氏は「巨人軍を長嶋茂雄に宣伝させるようなもの。これで売れなきゃもうどうしようもない」と言った。
まぁ、それでも売れなかったんだけど。

キャバリエの輸入終了から15年近く。テリー伊藤氏の言葉を借りるなら「巨人の宣伝を長嶋茂雄がする」ような企業からのメッセージが僕らの心に刺さらなくなって久しい。
「CMで○○が使ってる✕✕ってやっぱいいよね。」といった素直な心への刺さり方は、趣味も個性も分断され、ネットをはじめとした情報爆発を前にした今の世代にはそぐわない。

今の生活者が反応するのは、自分の好き嫌い(ポジション)がはっきりした人の「本音でしゃべってる感」だ。

(これを少し前のエントリで僕は「ポジショントーク最強説」として触れたが。。プロブロガーがポジショントークに勝てない理由 http://d.hatena.ne.jp/grand_bishop/20140710/1404968431 )

キワモノで終わらずここ数年継続的にマツコデラックスの広告があふれるのは、マツコ起用の広告は「『疑似』本音でしゃべってる広告」でありこの効果ある程度企業サイドも実感できているからではなかろうか。

マツコデラックスのようなその存在自体がコンテンツ化している人物が広告しているわけだから、僕に言わせればこれこそ「ネイティブ広告」だ。

近年はバカリズム出演のANAのCMや東京ガスの就職活動テーマのCMが批判と炎上により放送を取りやめることになった事例のようにどんどん広告、PR、コンテンツの表現方法の幅が狭くならざるをえなくなってきている。

「誰も文句を言わないモノ」は「誰も気にも留めないモノ」という事実の中でどう人の心を動かすアドやコンテンツを作るかを考えるとき、常日頃からの明確なポジション作りと本音の発信を行っているキャラクターの活躍の場が今後ますます増えてくるだろうと思う。

さて、例によって冗長になってしまったので今回はこの辺で一旦終わりにしようと思う。

本当に書きたいところまでたどり着かなかった。続きは後編で、、

では、今日も暑い中持ち場で頑張ったので、またマツコの顔でも拝みながら帰るとしますよ。