普通の人は自分のペースや手順を捨てないと永久に結果を出せない

「子供の頃から、なんとなく分厚い参考書を1章づつ制覇する『自分ルールのゲーム』をやっていただけで気が付いたら東大に入ってました。」
みたいな話をエリートから聞いて「ちょっと何言ってるか分からない」状態になってしまう普通のみなさんこんにちは。

僕も何言ってるか分かりません。

さて、僕ら普通の人の少年の頃のお勉強と言ったら、自分の部屋でキリのいいところまでちょっとだけと思ってファイナルファンタジーしていたら思ったよりやり込んでしまい、セーブポイントにようやくたどり着いたので、勉強やりはじめようとしたらなんとなく部屋が散らかってるのが気になって、机の周りを片づけていたらJOJOの奇妙な冒険の1巻とかを発見してしまい、気が付いたら三流大に居たという感じなわけです。
まぁそんな少年時代を思い出しながら、先日会社役員数人で集まって話題になったのが「なぜオカンは勉強をしようと思い机に座る5秒前に部屋に入って来たのか?」問題である。

やっと読んでいたJOJOもきりのいいところまで読み終え、さぁこれからもはや「人間を辞めたのでは?」という恐るべき集中力で机に向かおうとしたその時!ガチャ。おっオカン。

「あんたまた遊んでる。ほんまそんなんでどうすんの?ちゃんと勉強せんかったらほんまロクな人間にならへんで」

「ちゃうねん!ちゃうねん!今ちょうどしようとしたところにオカンが入ってくるから。」

「あんたまたそんなアホなこと言うて!どうせずっとマンガ読んでたんやろ!」

「いやだから、勉強しようと思って部屋片づけてたら、ちょうど、JOJOを見つけてしまって『俺は人間をやめるぞ〜』だけ見て気分を奮い立たせようとしたらそのまま、、」

「何、アホなこと言うてるの!」

・・・はい。おっしゃる通りロクな人間になりませんでした。

という体験を皆していて、なんであんな絶妙にムカつく瞬間に勉強部屋に入ってくるのか?という話で盛り上がったのであった。


■結局言われるまでやらない→仕事が遅いと思われる。を繰り返しいつまでたっても信頼されない不幸の連鎖

恐ろしく長い前フリだったが、2流上司と2流部下が織りなす仕事上の悲劇でもよくあるのが「どんどん指示を出す上司としっかり自分の仕事を自分のペースでやりたい部下が衝突する」ケースで、上司は部下を「無能」と決めつけ、部下は上司を「現場に無知な無茶ブリ王」として大嫌いになってしまう状況だ。

すべての不幸の始まりをよく観察していると、

1.上司が部下に頼んだBという仕事が進んでいるか進捗を聞く。

2.部下はそれより前から自分なりの手順とペースで取り掛かってるAという仕事を完了させてからBを始めようとしてあと少しで取り掛かれると思ってきた矢先の進捗チェックをされ、「まだ未着手です。」と返答する。

3.上司はこの部下を「動きが遅い!」と叱責したり、評価を下げるが、本当はスピード感より「自分の指示が最重要に扱われていない」ということに対する自分が軽く見られたという怒りが少なからずある。

4.部下はいやいや、「そもそもAもあんたが言ってきた仕事だろ」と思いながらもの手を止め、Bの着手を開始。

5.そこで、「この部下は自分の指示を軽く見ているのではないか?」という疑念を抱いた上司は他の指示についても進捗チェックを始める。そう、少し前に依頼したAという仕事だ。「Aはどうなった?」と聞く。

6.ようやくBに取り掛かった部下は、当然答える。「Aはまだ完了していません。このままでは期日に遅れます。」

7.上司は思う。「こいつはダメなやつだ。俺の言うことは聞かないわ、仕事は遅いわどうしようもない。次から事細かく進捗をチェックするようにしよう。」

ここから後はもはや不幸の連鎖である。上司は仕事の遅い部下の生産性を上げようと逐一チェックするが、結果的にボロをあげつらう形になってしまい上司部下の関係値も最悪になる。
もちろん評価を最低ランクに下げられた部下はやる気もなくなり、生産性や創造性を望むべくもなくなる。

■どうすれば不幸の連鎖を止められるのか?(部下の立場の場合)

上司の進捗に対するチェックのタームというのは、部下に対する信頼が厚いほど長くなる。まぁ当たり前だ。「任せて安心」というやつである。

そして、3流ではないきちんとした2流の上司というのは部下に振った仕事はきちんと自分の経験に基づいたマイルストーンと照らし合わせて進捗チェックをする。

そこで、自分の経験に基づいたマイルストーン以上の進捗であれば、「こいつは有能、且つ忠誠心が高い」。未着手であれば「こいつは無能、且つ俺のことを舐めている」と判断している。

そしてとりもなおさず、一回目のチェックをクリアすれば、2回目のチェックのタームは長くなり、2回目のチェックをクリアすれば3回目のチェックは更に長くなったり甘くなったりするのだ。

だとすれば、最初の話に戻れば、部下のベストプラクティスというのは「Bという仕事を頼まれたら、どんなに佳境だろうが、気持ち悪かろうがAを放り出してBを着手し、全速力で上司が考える最初のマイルストーンまで到達し、進捗報告してからAを仕上げる。」である。

こうすれば、上司は自分の無茶ブリ(多くの上司はある程度自覚している)を快くすぐに着手してくれていることに感謝し、信頼される。信頼されれば進捗チェックのタームは長くなり、チェック精度も荒くなる。つまり仕事を任せてもらえるようになる。

信頼さえしてもらえるようになればあなたは格段に仕事がやりやすくなる。要所要所さえ押さえればを自分のペースで自分のアイデアを反映させて仕事が出来るようになる。


■どうすればチームの生産性を上げられるのか?(上司の場合)

そもそも、部下の生産性を考えず、次から次へと仕事を落っことす2流上司がダメなのではないか?という議論もあるだろう。

しかし、いくつかのポイントを弁えてさえいれば僕は、「現場へ権限を委譲する」と綺麗事を言いながら放置プレイする3流マネジメントに比べれば遥かにマシだと考えている。

2流上等である。

今も昔も経営はスピードが命である。経営のスピードというのは製品やサービスを、企画を「カタチにする」チームを構築できるかに依存する。

理想は上から下まですべてのレイヤーの社員がすべての工程において自発的に最短時間で最高のアウトプットを出す一流の人材であること。かもしれないが、そんな理想を目指すとか言ってる会社が何もカタチにできず消えていく姿を皆さんも何度も見ていることだろう。

僕はWebの世界に転身する前はメーカーの中でエンジニアをしていたので、工場生産管理なんかも勉強させられたが、製造業の生産性向上で散々話題になったドラムバッファロープ(詳しくは今更ですがザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何かでも読んでください。)というプロセス改善に対する理論がある。
平たく言えば、工場などで一番仕事に時間がかかる工程を起点にラインを構築し、場合によってはそれよりも進み過ぎる工程は仕事の速度を遅くしたり、休ませたりする方が仕掛り在庫が減り、生産性が上がり、納期が縮まるという理論だ。
もちろん、それはとりもなおさず最も仕事が遅い工程が全体の生産性のキーを握っているのでここを徹底的にマネジメントや改善すれば工程全体のスループット(処理能力)も上がるということも意味する。

僕はこれは工場以外も同じだと考えていて、進捗チェックをしながら各部下のスループットを計測し、最も部下の中で仕事が遅い者を見つけ出して徹底的に叩き直す。というのは基本的にチームの生産性向上のために正しいと思っている。
また、どんどん仕事を出して部下の仕事のスピードをコントロールするのも重要だ。

部下が自分で見つけてくる「やるべきこと」は多くの場合「今」必要なことではないし、少しでも視野の広い上司が仕事を出さなければ部下はどんどん意味ない仕事を自分で作り出し始める。
そして、意味ある仕事を部下は「やらなければ、、」と思っていても上司が言わなければ永久に自発的に着手しない。

だから、上司はどんどんやるべき仕事を指定して部下に落とすべきだ。そしてもちろん進捗をチェックする。しかし初回の進捗チェック時に、怒りすぎてはいけない。多くの場合はタスクの多さを理由に着手していなかったり、思うような進捗は得られていないだろう。
腹が立つのは分かるが、それは、まだ仕事の順番が理解できていないのかもしれない。
やる気をなくさない程度に励ましながら注意し、まずは仕事に着手させスピードをコントロールするべきだ。
上司の役割はボトルネック(もっとも足を引っ張っている状態)になる人間の仕事力をアップさせてあげて、チーム全体の生産性を上げることだ。

その際に注意したいのは最初に出した仕事の進捗の計測と生産性のチェックを怠らないことだ。
あれこれ指示したがすべて中途半端にならないように、古い指示も適切なタイミングでフォローすること。
初動と初回の報告は早いが後の詰めが甘い要領の良いだけの部下の生産性を見誤り重用しすぎないことである。

チーム全体の「ビジネスをカタチにする」スピードを向上させるためにはどんどん仕事を部下に出して、進捗をチェックしながら部下のアウトプットの質とスピードを向上させるサポートをすること。
そして最もやってはならないのは、自分と部下を無能と罵りあう不幸な循環に陥れてチーム全体のスループット(処理能力)を下げてしまうことだ。

完全な人に成長したり、完全な人が配置されないから全然結果が出ないという発想はやめよう。自分も部下も不完全だし、この先も基本的な能力は大して成長しない。
自分も部下も不完全であることを悟り、そういうポンコツが集まって成果を出すにはどうすればよいかそろそろ考えよう。

■優秀な人を前提としたチームビルディングは単なるアートだ

ITやWebの登場で「組織から個人の時代へ」というのを喧伝する人が後を絶たない。
また特にWeb業界などはコンサルやら、メディアやら、広告やらの業界出身者が多いせいか、まだまだモチベーションやら、イノベーション力やら上滑りした言葉で組織を語る人がいる。
まぁそれ自体は間違っているとは言わないが、仮にそれが正しいとしても、製造業からサービス業への産業構造の転換の過程で1流のビジネスパーソンたちが集まった時にしか機能しないものを見せびらかされて、日々努力する2流以下の普通の人がまるで無能かのように言われるのは心外極まりない。
普通の上司と普通の部下でどんどんビジネスをカタチにしてスケールできない組織はいくら注目を集めてもアートであって、産業には昇華しえないと思う。
Web系ビジネスなどはそろそろ普通の人たちがきちんと認められ、食っていける「産業」に進化してもよいタイミングだと思う。

普通のビジネスマンの我々も「マッキンゼー式仕事術」的なものをいくら読んでも無駄なことにいい加減気づくべきだ、そもそも目の前の仕事にも着手せずにそんな本を手に取ってても時間の無駄だ。
少年少女の頃、買っただけで満足して、開きもしなかった参考書と全く同じ。いい加減諦めよう。

むしろ、うかうかしていると、我々の仕事はシリコンバレーのオタクちゃんが宇宙に行く為の金集めに作るロボットや人口知能に奪われてしまうかもしれない。

そんな僕たちがロボットに勝つ生産性向上の鍵は、エリートだらけのコンサルティングファームではなく、ロボットと仕事を分業しながら延々と我々の生産性向上を試行錯誤してきた製造業の現場にあると僕は思っている。
まずは、どんどん仕事をチームに乗せること。すぐに仕事に手を付けること。ボトルネックを特定し、管理すること。だ。

さて、毎度のことながら冗長な話になってしまった。

まとめるとこうだ。

「オカンが絶妙なタイミングで勉強を始める前に部屋に来たのは、『僕らが言われるまで勉強に手を付けなかっただけ』だった。でもそんなオカンのおかげで非エリートなりになんとか社会に出ることができたわけだ。そんな僕らもさすがにいい歳なんだから指示された仕事くらいは『今すぐに』手を付けよう。」

さて、僕もそろそろ進捗報告のタイミングだ。今日も持ち場でがんばった結果を言われる前に報告して評価され結果を出しやすい環境づくりに励むとしよう。