3万円以上する靴を大切にする費用対効果の話

新年おめでとうございます。
年末年始はずっと家に居たので本を読んだりブログを書いたりしようとおもっていたのだけど、結局子供たちに毎日ご飯を食べさせたり遊びの相手をしているだけで終わりました。
でもこれはこれで貴重な時間だと思うのでよしとします。

さて、僕には仕事納めをした後、年を越すまでに必ず行う自分行事があります。
それは「靴磨き。」
一年間僕の足元を支えてきてくれた革靴一つ一つにブラシをかけ、クリームを塗り込み、ワックスをかけます。
僕が靴を大切にするようになったのはそれほど昔のことではなくここ10年程のことです。

年初から重苦しい話や正月早々誰かのDisりをおっぱじめるのもなんなので、今日は靴を大切にしてきてよかったなぁ、と年末靴磨きをしながらいろいろ思い出したので個人的な話ですが忘れないうちに書き留めておこうと思います。

僕が最初に革靴にお金と手間をかけるようになったきっかけは会社を立ち上げて2年目。
経営は安定せず、休みもなく仕事をするも先行き不透明。不安を抱え、家庭もめちゃめちゃ。
心身共に疲弊して、朝になると軽い出社拒否状態になり玄関まで行くのに気乗りもしなくなっていたのをなんとかせねばと思ったからです。
改善案は至ってその場しのぎで場当たり的な作戦。つまり、スーツを着て出社したくなるようなきっかけを作ることでした。
それが「テンションの上がるような仕事用の新しい靴をどんどん買おう」ということ。まぁいわゆるヤケクソですね。

やはり憂鬱な朝でも少しでも通勤に楽しみがあると誰しも違いますよね。好きなアーティストの新曲を聞くでも、いつもの電車のいつもの車両に乗ってる美人のおねえさんを見ることでもなんでもいい。
僕の場合は朝起きて玄関まで行くことを少しでも乗り気にさせるのがたまたま新しい靴だっただけ。

ここ10年くらいは世間的にいわゆる本格紳士靴もちょっとしたブームだったこともあり、欲しい靴の新作や情報に事欠かずどんどん靴は増え(何しろ、靴を新しくしないと会社に行かなくなってしまうから)興味はメンテナンスや製造工程、業界やビジネスモデルまでどんどん広がってすっかり革靴が趣味になってしまいました。
なにしろ当時はお気楽な独身の時期でしたからね。お金の後先も全く考えずカードや有り金叩いてとにかく靴を買いました。

自分は運だけで今があると思っていますが、不思議なもので良い靴を買い、大切に手入れするようになってから靴をきっかけにした幸運がいくつか訪れてくれたと思っています。

■幸運その1:大切なお客様を連れてきてくれた

靴を買うようになって1年くらい経った頃、偶然会社に電話をもらいました。相手はスイスの高級腕時計メーカーのマーケティング担当者。
どうやら、上司から無茶ぶりを受けたようで、すごく焦って検索して、うちの会社のサイトに迷い込んできたようでした。
凄く急いでいるようでWebサイトの内容もよく見ずに電話をしてしまったらしく、なにはともあれ来てくれとのこと。
行ってみると、急ぎのマーケティング施策をサポートしてくれる会社を探して何社かに連絡したそうです。
数社がプランを提出し、フランス人の上司が採用のジャッジをするとのことでした。
僕以外に話を聞いている会社は名だたるグローバルの広告代理店や世界的なブランドコンサルティング会社でしたが、例え噛ませ犬でもチャレンジしてみようと思い一生懸命プランニングをしプレゼンしました。
今考えても自分でも恥ずかしい幼稚で陳腐な提案でしたが、数日後、なぜか僕のプランが採用されたと連絡が来ました。
後日聞いた話だったのですが、そのフランス人の上司は時計メーカーの親会社のラグジュアリーコングロマリットから来ている方で、エレベーターに行くまでに僕の靴を見たらしく「彼の会社にしよう。彼はね靴がいいね!」と言ってくれたそうです。
本当はプランの内容を認めてもらうのが一番なのですが、これもきっかけ。仕事をする中で実力を伴わせてもらえるようがんばろうと考えて必死にやっているうちに今まで続く大切なクライアントの一社になって戴いてます。
彼はバイクと靴が大好きな洒落者で(でないとブランド名が書いてあるわけでもない靴を一目ではわからないですよね。)今は違うブランドに移籍されましたがそちらでもお付き合いさせてもらっています。

■幸運その2:なかなか会えない人のところに連れていってくれた

「足元を見る」という言葉があります。
元々は宿場町の宿が訪ねてきた旅人の草履のくたびれ具合でどれくらいの宿代を請求するか決めた(もう他の宿を探せないほど疲れていそうなら価格を高く提示する。)ことからという話もあるそうです。
靴でも歯でもそうなのですが、自分が気を付けていることと言うのは誰かと会ったときにどうしても気になってしまうそうです。もちろん僕もそうです。さすがにそれで人を値踏みしたりはしませんが、、
僕はWebに関する仕事をしていますが、立上げて間もない頃、自分の会社や自分を売り込む為には金融や製薬などの比較的コンサバティブな業界に積極的にアプローチをしました。
渋谷や六本木に居るようなカジュアルな格好をしたイケてる業界人の人にとって、できるだけかったるくて、話の通りが悪い業種の方が競争が激しくないと思ったからです。
ドワンゴの川上会長は「自分はスーツを着たくないから広告事業モデルはやらない。」と昔何かで仰っていましたが、川上さんのような天才がわんさか居る「スーツ着ない人たちの業界」に異業種、メーカー出身の僕が突撃しても勝ち目がないと思ったんです。
金融などの比較的堅い業界は一時に比べるとラフになったとはいえまだまだスーツがスタンダードで服装のレギュレーションが厳しい業界です。
バカバカしいと思うかもしれませんが、僕はいつもスーツによく磨いた靴を履いて打ち合わせに出向き、よくわからないカタカナ業界用語を使わないことを何度となくお客さんに高く評価してもらいました。
今でも多くの方にかわいがってもらっています。まぁ、もちろんサービスや商品の内容を高く評価してもらいたいのですが、とにもかくにも意思決定者に到達しないことにはプレゼンの機会もありませんからね。
僕らみたいな何処の馬の骨かわからないベンチャーが頑丈な守りの城に攻め込むのなら変装でもなんでもやらないといけません。
ある金融機関の僕をかわいがってくれる方に城山ガーデンヒルズに呼ばれ、なかなか会うことのできない彼らのボスにも紹介してもらえ大きな商談を纏められたあと。
なぜ、僕をそんなに使ってもらえるのかと彼に聞いた時「ボスには『汚い靴を履いた奴を俺の部屋に入れるな。』と言われているんだよ」と言われたことがあります。
自分たち非エリートには想像もつかない地雷が埋まってる場所が世の中にはあるんだなぁ。「またおまえに助けられたなぁ」と靴のつま先を見ながらつぶやいたことがあります。

■幸運その3:嫁を連れてきてくれた

もうずいぶん前になりますが、好きでよく履いている紳士靴メーカーの主催する「靴磨きをしながらフランス料理を食べる」という会に「東京でも選りすぐりの靴バカ」として招待をしてもらったことがありました。
2人分招待してもらったのですが、僕には当時彼女が居ませんでしたし、一緒に行こうと思っていた靴好きの友人が急な仕事でキャンセルになったため、たまたまその日暇をしていた親友の病院理事を誘って参加しました。
ある大使館の地下で行われた会はフランス料理を食べた後、そのテーブルでみんなで持参した靴を磨くという本当にイカれた会でした(笑)
僕は楽しかったのですが、当然友人は退屈して暇を持て余してしまいます。
同じく退屈そうにしている隣の席の夫婦の奥さんの方と話をしはじめました。もちろんお隣の旦那さんと僕は靴磨きに夢中です。
靴磨きの会が終わり、友人はトイレの前で名刺を僕にくれました。

僕 「?」
僕 「なにこれ?」
親友「さっき隣に座ってた女の子の名刺。お前からメールをすると伝えておいた。必ずメールするように。」
僕 「っていうか人妻でしょ?!おまえなにやってんの?w」
親友「彼女はとなりの男性と夫婦でもカップルでもないよ。ありゃ仕事だ。」
僕 「は?」
親友「いいからメールしろ。そんで飲み会をセッティングするんだ。そん時は飛び切り可愛い子を連れてくるように言えよ。」
僕 「なんで俺が、、」
親友「俺はダメだ彼女は背が高すぎる。お前が確実に好きなタイプだ。」

そんなやりとりの後、確かに帰り際に挨拶して、はじめてちゃんと見た彼女に僕はすっかりやられてしまい、勇気を振り絞ってメールをして後日会うことになりました。
それが妻と出会ったきっかけ。

彼女は仕事で、特徴的なカスタマーサービスをする企業に関するリサーチを兼ねて、上司のお供で参加していたのでした。そこに空気も読まずに退屈が過ぎた親友が話かけたというわけ。
その後は気恥ずかしいので書かないですが、僕の方がすっかり熱を上げてしまいすぐにプロポーズし翌年には結婚をしていました。

■「安い靴は不経済だからね」

僕は生まれ育ちも良くない上に根っからの貧乏性なのですが、ある時「身の丈以上」と思っていた靴を買って大切に手入れし始めてから沢山の幸運が訪れ、またいろいろな勉強をさせてもらいました。
そしてそれまで行ったことのない所に靴の方が連れて行ってくれたように思います。

気が付いたらこれまでに自動車が買えるくらい靴にお金を使ってしまったけれど、それ以上のリターンがありました。10年の利回りは、、もう計算できないほどです。

イギリスのブレア元首相はお気に入りの革靴を18年間も大切に履いており、タイムズ紙のインタビューでは在任10年成功の秘密として幸運の靴の話をしたそうです。
http://www.afpbb.com/articles/-/2243138

その時の言葉が素晴らしい。

「安い靴は不経済だからね。」

僕は精神論やお説教は嫌いなつもりです。ただ、靴に関しては本当に大切にしてよかったと思うし、今も1年を無事過ごせ、今年も多くの幸運に恵まれたことを感謝して年末には靴を磨きます。

今では子供たちの靴があふれてシュークローゼットの僕の領域も随分小さくなってしまったけれど、自分の靴ではなく子供たちの靴が増える幸せも靴が運んで来てくれました。

皆さんは何か自分のラッキーアイテムはありますか?

もしなければこれを機に今年は靴を大切にしてみるのは如何でしょう?

さて、今年も良い年でありますように。今日からまた自分の持ち場で足元を確かめながら一歩一歩がんばることにしますよ。