「一見無駄だと思う作業が大事」と中の人が言ってる業界こそ攻撃対象

『必ず「俺は聞いてない」というおじさんが出てきて邪魔をする。』だから、『何度も何度も同じ内容の説明会を開き』『壊れたテープレコーダーのように同じことを言い続ける』というのが大事だ。
という記事を読みました。

「聞いてない」というオジサン 2016.6.1.|木下斉/HitoshiKinoshita|note(ノート) https://note.mu/shoutengai/n/n81a1420a0a7e

僕はこれを読んで思うところがありました。
新規事業成功のキードライバーについてです。

この記事自体はとても現場感のある内容で本当にその通りだと思います。
「こういうオッサンどこにもおるよな〜あるある」というのは感想。
「そうか、、こういう一見無駄なように見える粘り強い作業は大切なんだな。」という学びもありました。

これは地方再生だけでなくあらゆるマーケット、事業推進の「あるある」でもあります。

さて、問題はここからです。


ここから思い至るのはこの記事で出てきた「事業を上手く推進する為の繰り返しの説明会」のような現状一見無駄なように見える粘り強い作業が実は事業を成功させる為のキードライバーになっているということが良くあるという事実です。
そしてそれはとりもなおさず「過剰なオペレーションをする能力、体制を持っている事業者が優位性を持っている市場である」と僕には見えます。
もちろん「過剰なオペレーションのコスト」はサービスなり成果物の販売価格に一定量転嫁されるはずです。

例えば門外漢がこれを上っ面だけのリサーチなどで理解すると、「巨大な非効率市場」に見えます。(実際にそうなのですが)

しかし、安易に新規参入するとうまく行かず討ち死にします。
まず、そもそも数字がついてきません。美しい事業計画、洗練された業務フロー、最新のICTをふんだんに使って鳴り物入りで参入しても、どうも受注が取れなかったり、せっかく受けた仕事もトラブルだらけになったりします。

業界や現場をよく知らない人ほど新規事業を立ち上げると、アイデアや理想を素直に実行しようとするので「無駄な慣習やオペレーション」を豪快に削ります。
でも実はそれこそがこの事業のキードライバーだったというオチです。

とはいえ、無駄を飲み込んでしまうと既存大手事業者に叶うはずがありません。あたりまえですよね。
彼らは長年「外から見たら無駄なことが必要だという経験値」を基にそれを洗練するということをして競争優位を確立しているからです。

ある意味「歪んだオペレーショナルエクセレンス」です。

例えば、最近だと「不動産テック」などというテーマなどまさにこの状態ですよね。
「『俺は聞いてない』っていうオッサン」が一番いっぱいリアルに出てくる業界ですから(笑)
そういう属人的な仕事のプロセスを飛ばして「ネットで完結!」とか言ってもうまくなかなかいかないわけです。

さて、シリコンバレー大好きの上滑りしたことばっかり言うにーちゃん達の肩を持つわけではないですが、僕はそれでもこういう業界は誰かが攻めるべきマーケットだと思います。

ではどうすれば、どういう人が切り込めるのでしょうか?

僕は事業責任者が「現場業務に『本当に飛び込む』ことを厭わないこと」、「ICTについて理解していること」がポイントだと思います。

巨大な非効率市場()で討ち死にする新規参入者の死体を見ていると

1.マーケットのあるべき姿を描く
2.生活者にウケる新しいアイデアを出す
3.本当に必要なビジネスプロセスの洗い出しをする
4.現状プロセスのボトルネックの特定
5.ボトルネックを解消する新しいアイデア
6.アイデアのシステムへの落とし込み、設計、構築
7.新しいビジネスプロセスを法律や業界ルール違反とならないように認めさせる交渉

を一貫して理解、実行できる人ってなかなか居ないんだなと気づきます。

最初の2つを理解している人は結構いますし声も大きい人が多いですね。情報も沢山あります。
しかし同時に3〜4の項目については理解している人はぐっと少なくなります。そして3〜4をできそうな「現場の人間」や「業界経験者」に任せてしまうと「目の前の業務」にひっぱられてしまいオペレーションは理想形にはなりません。
そして5〜6の部分はどちらかというとICTの知見がないと難しいです。
新しいマーケットに切り込む側は、チームを組むと1〜2が経営、3〜4が業務系の人、5〜6がシステム屋さんとかでやりがちなのですが、出来上がった事業はまず利益が出ません。
もしやるなら全て一貫して理解、実行できる人が居て全体をデザインしないと風穴を開けられないと思います。

7.についても少し言及しましょう。
これまでの常識を打ち破り新たなビジネスプロセスを実現したとしても、まだ最期の壁が残っています。
それが規制です。
旧来の「あたりまえの業務プロセス」は、「法律(業法)」「省令」「条例」「業界団体の自主規制ルール」などで守られていることはままあります。誰の都合かはここでは言いませんが、あるものはあるのが現実です。
これをないがしろにすると、まさにアンタッチャブルになってしまい、最悪「改革者」ではなく「犯罪者」にされてしまいますので新しい方法が適法であると認めてもらう必要があります。
ドン・キホーテが「テレビ電話で薬剤師と相談できるから夜中に店舗に薬剤師不在でも薬を売っていいだろ?」とか、
QBハウスに対して「洗面台がないのは不衛生なので理容店として条例違反である。」とか言って揉めてたのがありましたよね。あれです。
ここもアイデアをひねり出して粘り強く交渉してクリアしないといけません。

ICTは人の仕事を徹底的に破壊するパワーを持って居ます。
僅かな人間だけでこれまで沢山の人間が手間をかけていたことを完璧にこなし、大きな利益を手中に収めることも可能です。
そしてその裏で善良な勤労者がそれまで当たり前に「仕事」だと思ってがんばってきたキャリアとスキルを無力化し、生活の糧としての雇用を根こそぎ破壊することも可能です。

とはいえ、人間が築いたオペレーショナルエクセレンスの城壁は高くなかなか、能書きだけでは実現しないねと。そういう話です。

必死で城壁をツルハシで穴をあける側として生きるか、いつか開く穴に怯えて暮らすか。
僕自身についてはとんでもない小心者で心配性なのでいつか失われるかもしれない居心地の良い場所で怯えて暮らすより、毎日必死で巨大な壁に挑んで四苦八苦する方が気がまぎれるのでテックベンチャーをやっています。

まぁ自分がどちらにいるとしても、やるべきことは決まってますね。

今日も持ち場で頑張りましょう。