ビジネスにおける「バカ」のポジティブ変換は「素直」ではなく「天才」だ

さて、目の覚めるようなビジネスの成功とは一番遠いところに居る考え方がまともな皆さん。
皆さんにとって普段付き合っているボスは尊敬できる人だろうか?

常にあなたに的確な指示を出し、問題は事前に察知し助け舟を出し、トラブルは率先してあなたをフォローしたうえで、あなたが普段見えないところでがんばっているところもアピールせずとも見つけだし、労ってくれた上で、給料を引き上げ、輝かしい未来を見せ、あなたの能力がアップするようサポートしてくれているだろうか?

「その通りだよ!僕は彼(彼女)の元で働けて幸せだと思う!」

っていう人は、これ以上読み進める必要はない。

僕は、会社のボードメンバーとして自らが会社と経営のリーダーシップを取らなければならないというだけでなく、とても重要な仕事としてトップの戦略を組織に戦術レベルに分解して説明するという役割もあり、なによりもまず自分がその戦略を実行するフォロワーの先頭を切る役目を負っている。

同時に、戦術を実行をするスタッフが内容を理解して意欲をもって取り組めるように対話する役割でもある。

そんな僕が、自社、他社を問わず若いビジネスパーソンと上司との関係について話をする中で、よく質問を受ける中に「絶対おかしいことを言っている上司やトップの発言をどう受け止めればよいのか?」という質問がある。

「どんな発言や指示がおかしいと思うんだい?」

と聞くと、「例えば、、、」と言って出るわ出るわ、納得できない命令、指示、スローガン、方針、価値観。多分あの人「バカ」なんですよ。「バカだから」、「バカげてる」、「バカにしてんのかって言いたい」

バカバカバカ。1〜2時間も自由に話させていると、お酒でも入っていようものなら「バカ」だけでカウントしたら100回くらい出てきたんじゃないか?というくらい出てくる。

まぁ話を聞いてみると、確かに彼らの言ってることがまともで、ボスが「バカ」のようにも聞こえなくもない。

正直に言おう。僕自身もこれまで何人かのボスに仕えてくる中で、この気持ちを持たなかったときはない。

「事業提携で圧倒的に自社の方が立場が弱いのに、ほぼ一方的に自社取り分が多い契約を締結しろ」と言われたり、「この日までに立ち上げないとダメだ負ける!早くしろ!グズグズするんじゃない!」と「??誰に負けるの?」と聞きたくなるような無茶なスケジュールを指示されたりした時だ。

誰よりも現場の仕事を、他社との関係を、現実を知ってるのは自分だ。にもかかわらず状況も知らないで一方的に好き放題言って。できるわけないじゃないか。

(バカなんじゃないか?)

そう反射的に思わなくもない。

しかし、そこでそのままその言葉を言ってしまうとすべてが停止してしまうと考えて注意をしている。

そこでどうするか。よく言われるポジティブ変換である。ただ、調べたところ世間では、「バカ」をポジティブ変換すると「素直」になってしまうようだが、それではビジネスでは使えない。

「バカ」を「天才」に言い換えるのだ。


「ボスは天才なんじゃないか?」

である。

僕は仕事やプライベートでのお付き合いの中でメディアなどで言われている「天才経営者」の側近の人たちとよく飲んだりする機会あるのだが、「天才経営者」が身近に居る人たちに出す指示を聞くにつけ、僕らが普段居酒屋で愚痴っているレベルのボスの指示なんぞは子供のおつかい程度ではないかと思う。

どんな指示が出るかというと、例えば、、、

「(自主規制)」

みたいな感じである。

とにかくその時点では出来るわけないじゃないか!というような指示だったり、むちゃくちゃだ!とか、そんな自分勝手な、、、といった凡人が思いつく無茶ブリを1000倍くらい無茶にした感じと思ってもらえばよい。

でも、その時の話を振り返る側近の彼らは立派にその指示をやりきった上でしっかり事業を立ち上げ、目標を達成している。

僕は彼らを見ているといつも思う。

「バカ」を「天才」に変化させているのは、「バカ」げたことを「天才」だと信じて一見不可能なことに覚悟をもって臨み、障害を取り除き、アイデアをだし、粘り強く交渉をしてきた彼らなのではないかと。

ボスが言ってることは、その時点ではまだ後の評価が定まっていないことなのだ。

ボスが「バカ」だと思って、面従腹背で我々が仕事に真面目に向き合わず、チャンスを単なる苦役として何もしなければ確かに、ボスは結果的に「バカ」になる。

もし、我々が課題に真剣に向き合って力を尽くし実現ができればボスは「天才」となる。

結局のところ、ボスがバカか天才かは実は指示の内容や妥当性によって決まるのではなく実行する側の人間が決めているとも言える。

だからこそ、どんな指示も方針もスローガンもすぐに腹オチしなければ、まずスタートは「天才なんじゃないか?」であるほうが良いと思う。

「天才なんじゃないか?」と思えば、天才である理由を僕らが自分自身で探さないといけない。

最初の話であれば、圧倒的に立場が弱いと思っていた事業提携は自社の強みを会社中棚卸しして知恵を絞れば先方にアピールできるものがあるはずだ。

無茶なスケジュールも、そもそも何のために事業やサービスを立ち上げるのかを考えれば必要な期限はあって当たり前なのだ。むしろ、競合の誰よりも早くリリースできれば勝てる可能性が高まるなら無駄なものを作るより一刻も早く頑張って作る時期かもしれない。

(実際この2つは後にうまくいった。)

「ボスがバカ」で済ませば出てこなかった自分の中のアイデアを掘り起し、粘り強い交渉で周りを動かす。

目の覚めるようなビジネスの成功というのはそういった状況を乗り越えてこそ生まれてくるものだ。

言い換えれば、まだ自分が到達したことのない成功や成長をしたいなら「どれだけバカな(自分が理解できないことを言う)ボスであるか?」はとても大切だ。

僕のメンターで某外資コンサルティングファームのパートナーを務められたある方に教えられ、今でも心の支えにしている言葉がある。

「もし誰かとビジネスについて考えていたとして、

相手が『止めとこう』と思い、自分も『止めとこう』と思うアイデアはただ『やらなきゃいい』だけの話でそれ以上検討の必要はない。

相手が『やるべきだ』と思い、自分も『やるべきだ』と思うことはアイデアではなく単なるやるべきタスクだからさっさとやれ。面白くもなんともない。

本当に自分たちが真剣にぶつかって取り組むべきおもしろいビジネスというのは、

相手が『やるべきだ』と思い、自分は『止めとこう』と思うか、相手が『止めとこう』思っているが、自分は『やるべきだ』と思う場合だ。

こういう状況になるビジネスこそお互いに知恵をだし、実現できるように全力でぶつかり合う意義のある『おもしろいビジネス』なのだ。」

仕事をするうえで相手がどうにも理解できないことを言ってくるのは大変なストレスだ。

しかし、そこにこそやるべきことがあるのではないか?おもしろさがあるのではないか?という視点は失ってはならないと思う。

「ボスがバカでやってられないから転職したい」と言ってる人は、今一度自分がボスを天才にするという道がないか考えてみてほしいと思うし、逆に、「うちのボスは『バカ』なことは一つも言わない」と物足らない人こそ自分が成長や成功する機会を失っているかもしれないと考え今すぐ転職を検討したほうがよいのかもしれない。

まぁ、最初に「もらってる給料に対して如何に気楽で軽い仕事をするかしか自分は興味はない」という人に対しても「ボスに満足している人」同様この文章は意味なかったと思うけど、あえて最初に書いた「そういう人は読まなくてよいですよ。」という対象の中には入れなかった。
そういう人には無駄な時間をとらせてしまったことをお詫びする。

では、皆さん今日も持ち場でがんばりましょう。