悪気なく部下の手柄を横取りする人について

いつものダイニングバー。
カウンターのいつもの席、今日は見慣れない男性が隣でぶつぶつと独り言のように何かを言っている。かなり酒がまわってるようだ。

見た目は僕より4つ、5つ上だろうか。
ずっと知らないフリをしていたが、体がぐらぐらしてきたこともあり「大丈夫ですか?」と一言言ったら、やっと話を聞いてくれる奴が出てきたとばかり捕まってしまった。
どうやら、転職したばかりのある外資系の投資銀行で外国人の上司に手柄を横取りされたとのことで、ボーナスが上司の10分の1になってしまったらしい。
悔しい思いをしたそうで、そういうことはビジネスをしていればままあるよねと同情をしてしまい「じゃぁ、今日は僕のとっておきのワインを奢りますよ。飲みましょう。」といって、ワインを一本振る舞うことにした。
思った以上に長居をしてしまい、その間も同じ愚痴をずっと聞かされていたのだが、最期にポロっと彼が「なんであいつが○億で、、、」と漏らしたのを聞いて、一気に酔いがぶっ飛んだ。
僕のワイン返せ!

さて、例によって長い前置き小話はさておき、上司が部下の手柄を取るなんていうのは日常茶飯事なのがビジネスの世界。
生き馬の目を抜くような競争がある業界なら当たり前のことなのだろう。
今日、話題にしたいのはそういう魑魅魍魎の世界。。。ではなく、頑張ってがんばって、知らない間に部下の手柄を認めない状態になってしまい、組織全体のパフォーマンスを落としてしまう残念なマネジメントについての話である。

>完璧なのに誰もついてこない院長の謎

日経メディカルにこんな記事が出ていた。
「接遇日本一」目指す院長に誰もついていけず
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/clinic/fukumen/201505/542226.html

いわゆるトップが直接マネジメントをしているような「鍋蓋型」組織あるあるである。
医療機関向けのコンサルタントの方が書いた記事なので多分に自分の営業ポジショントークが入ってて、

「院長が患者向けの接遇向上を目指したいが職員が一向に改善しない。」
「院長は完璧な対応をしているが、職員は自分は院長のように優秀にはなれないと最初から諦めてしまっている。」
「院長は大きな声で亭主関白のように話すことがある。」
「すれ違いがありうまくお互いの思いが伝わっておらず行動が改善しない。」
「間にコンサルタントを挟んでコミュニケーションをしたら改善した。」

というお話しなのだが、まぁ、要するに典型的なオレ様上司のパターンである。

「院長が完璧すぎて私たちにはとてもマネできない。」とはよう言うたもんである。
まさに噴飯ものの詭弁であり、完全に組織として機能不全である。
ビジョンの共有が出来ていないというのはトップ向けの営業トークであり、課題解決に関するゲームのルールとゴールとインセンティブを設計せずに、トップの言うことをまじめにやっても全部トップの手柄になっちゃうからあほらしくて誰も動かないだけである。
「部下が自主的に考えて顧客満足度を向上させたい」と言う割に、この手のマネージャやトップにありがちなのは、自分が頑張りたがることだ。
部下がなんかやっても自分の指示が正しかったからで、「ほら見ろ!オレの言う通りやったらうまくいったろ?」と無邪気に自己の満足を追求する傾向がある。

とにかく自分の指示がうまく行ったゲームがしたいのだ。
この「自分の指示がうまく行ったゲーム」を鍋蓋型の組織でやると基本全員萎え萎えになって目が死んで来る。

確かに前述のコンサルタントが言うように、仲介者を通して会話することは有効な手段であるがこれをコンサルに任せていても当然コンサルが居なくなったら元に戻る。


>ここ一番を助けてるつもりがオイシイ所を持って行ってるだけ

こんな話もある。
とある会社の営業部長が今月の契約が部門ノルマにあと1件足らない。
部下を集めとにかくお願いできるところはないか?と話をしたら頼りになる部下Aが「では部長、僕をかわいがってくれるB社の社長さんに泣きついてみます。今から行ってきます!」と頼もしいことを言う。
そこでなんとその部長はなんだかわけのわからん負けん気をだし「俺も行って一緒にお願いする!」とか言う。「どうだ!部下と一緒に汗をかくオレ。」ってな感じである。
部下は思う。「せっかく助けてやろうと思ったのに萎えたわ。」

そもそも、そういう無茶なお願いはもはや損得勘定を超えた世界で普段の個人と個人の付き合いの貯金を切り崩して行う最期の手段である。
先方のB社社長も、その可愛がってる出入りの若者が上司に詰められて可哀想だろうと思い注文の一つもくれるかもしれんと言うのに、普段顔も出さない上役が急に来て注文だけくれなんて言われても、お前がなんとかしろよと思うだろう。

それで仮に注文がもらえたら「オレが足を運んでよかったろ!」と見事な手柄のかすめ取りである。
しかも悪気がないから手のつけようもない。
部下は二度と助けるもんかと思うであろう。またもや目の死んだ鍋蓋組織の誕生である。

DeNAの南場社長は著書の中で「自分はアホだ!」と公言するようになってから会社が成長し始めたと語られているが、さすが南場社長である。

統治とは部下の手柄を奪わないことから始めないと成り立たない。
自分はしっかり部下とコミュニケーションして部下を人格も実績も認めている。と言ってる人に限って、無用なアイデアを開陳したり、ドヤ顔で古い武勇伝を語る。
俺の真似をしないお前が悪いと説教したかと思えば、あんまりうるさいから「うまくいきました〜」と話を合わせる部下に「そうだろそうだろ!すごいだろ!」みたいな茶番をしては喜んでいる。

戦略レベルで優秀な人もこの悪癖を正さなければ戦術レベルの実行が伴わず、ポンコツ鍋蓋組織で何年も苦しむことになる。

いやいやそんなことはない。もっと無茶をしているオレ様社長が大成功しているじゃないか!というマネージャーやトップもいるかもしれない。
だかよく見て欲しい、そういうトップが無茶苦茶言ってるのは側近だけじゃないだろうか?
よくできたNo2、よくできる側近達とは、トップの求める結果をトップのなにを言ってるかわからないド正論やわがまま、時に暴言から拾い上げ、部下に適切な言葉で指示をだし、元々トップが欲しかった結果をトップの手柄として納品できる人達だ。
そういう人達が周りに居ないなら、まずはぐっとこらえてプロセスをマイクロマネジメントをしながら、ひたすら部下の頑張りを引き出すことである。
そして信頼できそうな人を一人見つけたら引き立てた上で自分の側近として育てその人としかヘタなコミュニケーションはとらないことだ。

>オレ様トップの鍋蓋組織で働く部下は?

さて、逆に部下の方はそんなトップを頂いてしまったら、もうどうにも救われないのであろうか? というと、そういうわけでもない。
心地よいだけの仕事をしたい人にとってはまぁどうしようもないからすぐ辞めちゃうのも手かもしれない。
ただ、仕事で何か結果を出したいと思っているならこの手の組織は自分が主体的に動けば改善の余地があり、早期に責任あるポジションに抜擢されたり自由に動ける余地がある。

僕が好きな戦国歴史小説の一幕(誰の書いたものかは忘れたが)にこんな話があった。秀吉は自分が担当した戦場では常に9割以上勝利が確定した情勢になってから信長に「お館さま〜やっぱりワシでは手に負えぬ〜〜だめじゃ〜〜!」と泣きつくというのである。これは最期にトップに明らかに自分の仕事の手柄が分かる状態にした上で「上司のおかげで勝てました。」と手柄を譲ることにより、上司の嫉妬をなくし、同僚にも文句を言わせない為だったという話だ。
なんとも秀吉的ではないか。秀吉が異例の出世をし、信長に絶大な信頼を置かれ様々なチャンスとリソースを与えられたというのは創作だとしても非常に興味深い話だと思っている。

同じことで、この手の自分が常に正しいことを誇示したいタイプのトップはコントロールしやすい。決して張り合って角を突き合わせず、前向きに仕事に取り組んだうえで最期の一押しの部分をトップにやらせてみて「おかげで上手くいきました!」と言ってあげてみてほしい。次からそういう人にはかなり大きな権限が付与されるはずだ。トップは他の人間に話をするよりそういう人を信頼し気持ち良く結果を出そうとする。ま、簡単に言えば茶番である。

バカバカしいと思うかもしれないが自分の待遇を哀れなところから救いだすには究極的には力を握るしかない。
そもそもビジネスは世界の真理を会議室で解き明かすことが目的ではないし、死んだ目をしながら自分の手柄に一生ならない仕事をすることでもない。

上司も部下もお互いの特性を見極めた上で、お互いをマネジメントしながら結果を出すことに注力したいものだと思う。

だれですか?まるで仕事をしないのを「部下の手柄を取らない為」とか正当化してるだけなんじゃいか?なんて失礼なこと言う人は(笑)

さて、今日も持ち場で部下の邪魔にならないようにがんばるとしますよ。

※実際の会社や事例をブログ用に組合せ改変したフィクションです。