若き靴磨き職人に教えてもらった僕の「人生の賞味期限」

ごきげんよう

僕は革靴が趣味なので、メンテナンスもいろいろと興味があって試行錯誤しているのだけれど、迷ったときはその道のプロの技を盗もうといろいろな靴磨き職人さんを訪ね歩いて教えを乞うことにしている。
靴磨きというと路上での靴磨きを想像する人もいるかもしれないが、最近では本格靴ブームもあり百貨店がサービスとして提供したり、独立したお店を構える職人さんも出てきている。

東京の職人としては世界中の著名人を顧客に持つ以前はキャピトル東急ホテル、現在ホテルオークラにシューシャインの店を構え、ベルルッティの顧問もしていた源ちゃんこと井上源太郎氏(※1)が第一人者として尊敬を集めており、若手では青山にバーカウンター方式の靴磨き店という斬新な店をオープンさせたブリフトアッシュの長谷川裕也氏(※2)などが有名だ。
古くからお二人には良くしてもらい、僕の手におえなくなったメンテナンスをお願いしたりしている。
ブリフトアッシュの長谷川氏などは靴の本場イギリスでシューシャインを披露して高い評価を得たりと、日本人の繊細な手仕事はやはり世界中で驚きを持って迎えられるようだ。

靴磨きというのは面白い世界で別にお作法を誰かが規定しているということもなく、メーカーすらこうしろというメンテを厳密に定めてないことも多いから、厳密にはこれといったスタンダードがなかったりする。
それぞれの職人が自分の美学に基づいてこれと思った手法を試行錯誤しながらやってるのである。
なので、職人ごとに靴のどの部分をどんな感じで光らせるのかとかが異なる。それがまた個性であり楽しかったりする。
ある職人は、水を足して磨くべきだと言い、別の職人は水は使ってはいけないと言う。クリームは潤いが大切だと言う人も居れば、乾燥させてカチカチにしてからの方が良い感じになると言う人もいる。革を熱するべきだ、いや熱するべきじゃない。ほんといろいろなのである。
まぁものすごくマニアックな世界だけれど。

いろいろな世界の真理は一つではなくいろいろなバリエーションがあり、いずれも正しく、いずれも間違っている。
人生いろいろとあり、それなりに視野を広げたつもりになるとこういうことが逆に真理だと思うようになる。

だから、いろいろな職人さんに靴を磨いてもらいながら、「いろんな方法がありますよね。」「そうだね。」なんてやり取りをしながら、誰しもが合ってるし誰しもが間違っているそういうもんだよね世の中は。となにやら悟ったような気分になるもんなのである。

しかし、昨年そんな成長したつもりの自分に酔っている僕の頭をぶん殴って目を覚まさせるように、「はっ」とさせられたことがあった。
大阪での出張に行った際に、僕はかねてから目をつけていた若手の職人さんが店を出したというので行ってみた。「靴磨き所 ダンディズム(http://www.dandhism.jp/)」という大阪らしいコッテコテの名前のお店、オーナーは若き靴磨き職人、宮田周平君である。
彼も自分の美学にそって独自に試行錯誤を重ねる研究家でとても好感を持った。まるでマッドサイエンティストの実験室のような雑然としたお店のソファーに座ることを勧められ、座面に乗っかった本やら靴やらを自分でどかして座る。
具体的な手順やテクニックについては記さないが、僕が見た中でも結構個性的な方法で磨きを行っていた。みるみる僕の靴が輝きを取り戻していく。そして僕はいつものように声をかけた。

「靴磨きに正解はないよね。本当に沢山の正解があって僕はとても面白いと思う。」
すると、宮田君は僕の予想とは違う答えを返してきた。

「僕は、正解はあると思っていますし、僕が正解だと思っていますよ。長谷川さんでもだれでもいいですけど、多分他の靴磨き職人と磨き方について話す機会があったら間違いなくケンカになると思いますよ。皆間違ってますからね。」

僕は、なにか起業に参加してからの10年の苦労と、沢山の人とお会いしていろいろなことを教えてもらった中で、自分が成長と思っていたことは同時に失ったものでもあることに気づき「はっ」とした。
これだ。この感じ。何か新しいものを作って行くときに突き抜ける為のこの信念というか、自信。
ある意味閉じた中で自分の正しいと思うものを自分だけが成し遂げられると思うこのパワーである。あぁ。これだよこれ。自分も確かにかつてもっと持っていた気がする。

最近メタップスの佐藤さんのブログ(現実を直視しながら理想を持ち続けることの難しさ、人生の「賞味期限」 http://katsuaki.co/?p=744)、それに対してのかわんごさんのブログ(人生の賞味期限について - 続・はてなポイント3万を使い切るまで死なない日記 http://kawango.hatenablog.com/entry/2015/02/14/204032)の中で議論されていた「人生の賞味期限」が尽きてないというのはこの感じなのかもしれない。
自分には自分の理想に向けて世界中を否定しケンカする気力と体力と勇気が残っているだろうか?
失われたものは取り返せないのかもしれない。それが僕の人生の「賞味期限が切れてしまった」とするのだとすれば、それを失ったことを認めずむしろそれを成長とすり替え納得してしまうのが一番よくないなと。
もう一度自分の中の気力に火を灯す。少なくとも失われたものを「成長」などと都合よくすり替えたりせず、かわんごさんが言うように「賞味期限が切れたとしても相応の戦い方がある。」そういうことを追及していかないといけないなと、そう思いなおしたりした。
靴磨き職人達も立派な若き起業家だ。やはり、自分の信じた道で戦おうとする人と会うと年齢や規模を問わず刺激を受けるなと。そう言う話。

さて、お昼休みももう終わり。
なんにせよ結果が全てですからね。今日もまずは目の前の仕事に視野を絞って持ち場で頑張りますよ。

参考※1 靴磨きで人生をも輝かせる才人〜技と人柄が世界の著名人を魅了する〜 - WISDOM https://www.blwisdom.com/skillcareer/interview/maestro/item/2217-08.html
参考※2 靴磨き専門店 ブリフト アッシュ 開店! [男の靴・スニーカー] All About http://allabout.co.jp/gm/gc/196366/