裸の王様の大臣の事情について

さてごきげんよう

我が家には小さな男の子が居て、このちびっこモンスターと自宅にいるとまず何もすることが出来ない。
手当り次第のものをひっくり返したり口に入れたりとまったく目が離せないし、飛んだり跳ねたりと休日となると阿鼻叫喚の世界が繰り広げられるわけである。

そんな子供達が唯一静かにしているのがドライブだ。
窓の外の景色を見て退屈もしのげるし、わずかな間だが僕ら夫婦も落ち着いて会話することができる。

そして、最近子供たちが気に入ってるのが「おとえほん 世界昔話【1】語り 鶴田 真由・音楽 守時 タツミ」である。
童話をBGM付きで読み聞かせしてくれるもので、日本昔話やグリム童話などがあり、これを車でかけながらドライブするとしばらく聞きながら一生懸命ストーリーなどを説明してくれたりし、その後、すぐに気持ちよく寝てしまう。

ちびっこモンスター達が眠ってしまった後も、夫婦二人でドライブしながら、再生される童話を聞いているのだが、聞き入ってみると童話というのは意外と知ってるようでその細部は忘れてしまっているようだ。
改めて聞くと何かと思うところがある。

今日はそんな話である。

先日、クルマの中で嫁と一番議論になったお話は「裸の王様」である。

僕も忘れていたくらいなので簡単におさらいしよう。

(今回はおとえほん 世界昔話【1】語り 鶴田 真由・音楽 守時 タツミのストーリーを基準にしています。)

はだかの王様

あるところにとても洋服が大好きな王様が居ました。
数多の洋服を仕立て、オシャレを楽しんでいましたがとうとうやり尽くしてしまい、何かよい洋服はないものかと思案をしていました。
そんな折現れた旅の仕立て屋。
彼らはなんと特別な服を作ることが出来ると言います。
それは「バカには見えない服」
王様は見たことも聞いたこともない洋服に喜び、すぐに仕立てを指示します。
王宮の一室を借り、早速作業を始める仕立て屋。
少し経った後、王様は自分の信頼する大臣に進捗を見に行くよう伝えました。
大臣は「バカには見えない服を」仕立ている作業を見に行ったのですが、仕立て屋達はハサミをチョキチョキしたり、針で縫ったりしているようなしぐさはしていますが肝心の布が見えません。
驚いた大臣は、自分がバカだと思われたくない一心で王様に作業は順調と報告してしまいます。
王様は、他にも切れ者の役人などにも進捗を見に行くように伝えますが、同じく他の役人達も自分に全く見えないことを王様には報告せず、あと少しで出来上がると伝えます。
上機嫌の王様は城下町へのパレードへ仕立て上がった服を着てゆくことにします。
そして、パレード当日、王様には仕立て上がった服を献上されますが、まったく見えません。
しかし、自分以外には見えていると思った王様。一生懸命服を着るマネをして下着だけの姿でパレードに出てしまいます。
後ろには見えるはずのないマントを仰々しく持つ役人や、見えているフリをする大臣が続きます。
しかし、城下では裸で現れた王様に皆大笑い。
そこですべてに気づいた王様は家来たちと共に慌てて城に戻ったとさ。
おしまい


裸の王様は会社や組織の中で、トップを揶揄する際によく使われる話です。
「社長はこのままでは裸の王様だ。」とか言うのは一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

裸の王様は殆どの場合、王様の間抜けさ、臣下の意見を聞こうとしない日頃の振る舞いを問題にし、次に王様の機嫌を取るのに終始して真実や都合の悪い話を進言しようとしない臣下を問題にします。

しかし、よくよく考えてみるとそもそもこのお話、大臣の振る舞いが不自然です。

様々なケースを想定し、議論した結果、おそらくこの話の裏にはこのような事情があったと考える方が自然だということになりました。

見えない服の最初の進捗チェックで大臣は、仕立て屋の手元になにも見えないことに驚愕し対応に悩んでいます。

この時、大臣は本当に「自分がバカであるので服が見えない」とはおそらく思っていません。
「アイタタ、、その手があったか、やられたわ・・・さてどうしたもんか、、、」
と思ったはずです。

うかつに王様にそのまま報告したら、折角ごきげんの王様は急転直下。
「バカな大臣は要らない」などという言いがかりをつけられ粛清の対象です。
よくて降格、悪くすればクビか処刑です。
大臣にはよくわかります。王様はそういう人です。

大臣は大変な葛藤の末、王様が信じたいものを自分も信じたことにしてこの茶番に付き合うことを選択します。
そもそも「バカには見えない服の仕立ての進捗を見に行ってこい」という指示自体がよくよく考えると王国の実務を一手に引き受けその地位を確固たるものにしつつある自分を失脚させるためにその口実を欲しているということも十分考えられるのです。
宮廷は伏魔殿です。
優秀な大臣はあの洋服バカの王様のことを過小評価はしていません。
熾烈な王位継承権争いを勝ち抜き玉座に座り、隙あらば武力併合を狙う近隣諸国との緊張関係の中での平和や、全く信用ならない同盟関係を維持できているのは、領土的野心をおくびにも出さず、内外に奇抜なファッションを見せつけ難くせをつけさせない、阿呆を装っているこの王様のキャラクターあってのことです。
彼ほどの策略家なら、なんらかの思惑あって自分を排除しようとしていることも十分に考えられます。

しかし、、、

宮殿内なら役人達から侍女まで大臣である自分が任命した国内のエリート揃い。
「見えない服が見える」というフリをすれば空気を読んで即興でもその茶番にき合うこともできるでしょう。

だが、、、「城下はどうする。。」

城下にも近衛兵達を私服化させ、最前列を固めて一般市民は外出禁止にするか、、、
いや無理だ。大袈裟すぎる。

近衛兵動員は王の最終決定事項。勝手に兵を動かしたとあらばそれこそ謀反の言いがかりを付けられかねない。

ならば、、

いちかばちか、、伏線を張るか、、

大臣「王様!王様! 仕立て屋が言うには、一両日中には完成するそうです。素晴らしい出来ですぞ」

王様「そうか!それは喜ばしいな。楽しみじゃ。」


しかし、少し間をおいて、大臣は深刻な顔をして王様に耳打ちします。


大臣「実は王様。誠に申しあげにくいのですが一つ心配事がございます。」

王様「なんじゃ?そなたが心配するほどのことだ。聞いておきたい。」

大臣「はい。城下の身分卑しきものにもこの度の衣装を着られた王様への拝謁機会をお与えになること。
我が主君の慈悲深さに臣は感服することしきりでございます。ただ、卑しき者共故、おそらくそのほとんどにはこの度の衣装は見えずパンツ一丁として見えることになるかと、中にはそれを笑うような不敬を働くものもおるやもしれません。万一、あまりにひどい
ようであれば今回のパレードにおいては右手を2度お上げください。すぐに撤収できるよう準備をしておりますゆえ。」

王様「なるほど。我らが城下は民にも然るべき教育を施して居る故大丈夫であるかと思ったのであるが、、」

そこで大臣もこの好機を逃すはずはありません。

大臣「城下の教育や風紀に関しては、文科大臣の範疇でございます。昨今、民衆教育の成果とやらを喧伝し民衆の人気も相当なもの。なにやら悪いことを考えていなければよいのですが、、」

文科大臣は昨今急激に力をつけてきたハト派の大臣でライバルです。この際、目障りな男には沈んでもらうことにします。

王様「あいわかった。お前の言やよし。そこまで朕のメンツを気にかけてくれるおまえのような臣下をもって幸せじゃ。勝負パンツで当日は望むものとしよう」

大臣「さすが我が主君。その度胸、近隣諸国も恐れましょうぞ!うわはっはっは」

王様「うわはっはっは」

そう言って、大臣と王様は笑い合い、謁見は終わりとなりました。

大臣を見送った後、王様は先ほどまでの大笑いの顔がピタリと止まり、真顔になって一言つぶやきました。

「しっぽは出さんか。。タヌキが。。」

■裸の王様 その後

当日盛大に笑われパレードを早々に切り上げた王様。

宮殿では怒り心頭です。

「わしがなぜあれほどに笑われねばならんのか!民衆の教育はどうなっておるのじゃ!文科大臣をよべ!」

パレードをよそに自宅の地下で支持者を集め、近隣でおおきなうねりを迎えつつある民主化の波を自国にも取り込もうと苦節20年。
下級官吏の家に生まれ、王様の家庭教師から文科大臣にまで上り詰めた男は自宅に突然踏みこんできた近衛兵に羽交い絞めにされ、裁判を受けることもなく投獄。
「王様を笑いものにするような民衆の教育しかできなかった罪」を問われ処刑されることにりました。

最期の言葉は
「せめて革命の首班として死にたかった」
でしたが、それは表には出ることはありませんでした。

洋服好きの王様は、今日も大臣や臣下に無理難題を投げています。
宮廷内は明るい笑い声が響き、大臣達は今日も一日一日を緊張感を持って過ごしています。

おしまい。


何かアウトプットを出すには組織の中でまず生き残らないといけません。
王様を裸であると言うことが必ずしもベストプラクティスなのか。
なぜあの人は王様を裸で居させるのか。

僕らは持ち場を守りながら注意深く見極めないといけないのかもしれませんね。