プロブロガーがポジショントークに勝てない理由

さて、素人が一時的に稼げるようになるのは中期で見て産業が壊滅する予兆であるという話を生煮えの状態で投入して、その後、自分的にはすごく後悔するエントリ―だったので、もうちょっと纏めます。

前回のエントリ
「素人が大金を手にするサクセスストーリーは産業が壊滅する予兆」
http://d.hatena.ne.jp/grand_bishop/20140708/1404817524

前回はNIGOとHIKAKINを例に出しましたが、言いたかった要点はITやWebの登場によって産業は以下4つのステップを経て、僕ら細々と働く非エリートの居場所としての産業を壊滅させていくのではないか?という話でした。

■テクノロジーによる産業壊滅の4ステップ

ステップ1.
プロのツールが安く、使いやすくなり、これまで容易にはマネできなかったプロの領域に趣味や副業で参入可能な技術革新が起きる。

ステップ2.
安くなったプロのツールをうまく使ったアーリーアダプターが一時的にプロ同等やプロ以上に稼いだりして話題になる。しかし、素人が稼げるようになったということは、中、長期で見ると、「プロのツールを使える」という「オペレーター」としての付加価値は消滅したことを意味しており、同時に産業としてマネタイズのハードルが劇的に上がったことも意味している。よって、少なくとも労務費としてのお金の流入はその産業に関しては減少する。つまり、商品価値やマーケットの拡大とプロの雇用が連動しない状態(デカップリング)が起きる。

ステップ3.
労務資本を抑えながら、マーケットが拡大する市場はITやWebと相性がよいので、どんどん効率化が進み、従来の単なる情報のひずみだった付加価値は急速にゼロに近づく。

ステップ4.
最終的には産業としてカリッカリに尖ったものとタダ同然の既製品に収斂され、悪くすると悪貨が良貨を駆逐し、尖ったものすらなくなる。

という流れです。

個人的には人間の雇用が社会全体で見て拡大させないことをいくら金が儲かるからといって「ひゃっほーい!破壊的イノベーションだぁ!」という人間を尊敬する気分にはなれないですが。。
まぁイノベーションかどうかは置いておいて破壊していることは認めますので、まぁこの感想に関しては、貧乏人の妬みのポジショントークだと思ってください。

さて、今回はこれをベースに僕もネット企業の路地裏で仕事をしている人間ですのでWebコンテンツビジネスの現在の流れをどう考えているかということを少し書いてみます。

■プロブロガーとキュレーションメディアの登場そしてWebコンテンツの未来

キュレーションメディアというのが今熱いそうです。グノシーやスマートニュース、Newspicksなどです。
僕はCMをチェックする為以外にTVをあまり見ないのですが、最近ではグノシーが大量のCM投下をしたことが話題になりました。
他にもキュレーションメディアとしては僕の弟が仕事を辞めてまでキュレーターになろうとがんばって、半年まとめて人気キュレーターになった結果、日給300円だったネイバーまとめなんかもありますね。
これらはプラットフォームですが、同時にユーザーサイドにフォーカスすると、人は一次情報もさることながら、それをどうピックアップすればよいのか?どう捉えればよいのか?ほかの人がどう思ってるのか?ということも同時にほしがってるということがわかります。

これがつまり編集機能なわけです。
従来このポジションはプロの仕事だったわけですが、これがネットの登場で一気にハードルが下がりました。

既にWebの登場で、ステップ1の「プロの道具が安く、使いやすくなった」段階は過ぎています。
メディアに携わる人間にとってのプロのツールとは、一次情報へのリアルタイムのアクセスと、それを興味のある人に届ける配信機能のことです。
これが、SNSやブログの登場で劇的に安く、使いやすくなった。
誰しもが、テレビより早く世の中の事象をとらえて、自分で不特定多数の人間に発信できるような時代がやってきたわけです。

そこで、ステップ2、の段階「素人が稼いで話題になる段階」が来ました。
これが「ちきりん」や「イケダハヤト」であるわけです。
彼らは、一次情報を纏めて自分の思考の型でパッケージして配信している人たちです。自分たちはコンテンツを作ってるって言えなくはないかもしれませんが、最大限に誇張しても編集者ではないかなと思います。
まぁ、自分でそれを「クリエイター」と言っちゃうところは、ある意味イケダハヤト氏の唯一僕から見てクリエイティブな部分です。

で、今はステップ3.の段階に来ていると僕は考えていて、これがキュレーションプラットフォームが来ているところです。

様々なキュレーションプラットフォームがいろいろな切り口でこの編集機能自動化して人間が食っていた中間価値を切り落としてゆく段階です。
大量の一次情報を集約しながら、読み手に寄り添い興味があるコンテンツを自動的に形成していきます。

中でも僕が一番進んでいると思うのはNewsPicksです。
これのコメント機能は特に様々な立ち位置の有名人や実務家達が自分なりの感想や意見を記載するもので、まさに本来編集機能として最もクリエイティブだったものをリアルタイムに半自動化してコンテンツ化している点では、他のキュレーションプラットフォームとは全然違う次元にあると思います。

なぜ、違った次元にあるのかというのは、現在のステップ3から次のステップ4へ加速させる機能であるからです。

ステップ4はカリッカリに尖ったものと、ただ同然の既製品に収斂される段階です。

■尖ったコンテンツとは「尖った意見」ではなく「人生を賭けたポジショントーク

コンテンツにおける尖ったものというのはなんでしょうか?
これを釣りタイトルだらけのネットを見て「尖った意見」と思う人がいるかもしれませんが、僕は尖ったコンテンツとは「ポジショントーク」だと思っています。
ポジショントークとは、「ある特定利害を持った個人が、自分に有利に働くような未来像をメディアを通じて発信すること」ですが、コンテンツとして圧倒的に尖って面白いのはポジショントークです。
何しろ迫力が違います。その人が人生をかけてるものに対して入れ込んで発言する姿にはドラマがあります。
「自分のアタマで考えよう!」といいながら、社会事象を過去のケースを合成したフレームワークに落とし込んで評論しているだけの意見より、人生全額ぶち込んで、誰かを応援したり、「こうなってほしい」「いやこうなってもらわんと困る!」という主観と意思表明の方が迫力があるのは当たり前のことです。
これだけ釣り見出し、釣り記事が増えると、今後コンテンツを消費する側は「極端な意見」くらいでは反応しなくなるのは目に見えています。

もちろん特定利害を隠して他人を誘導し、利益を得るのは金融であれば「風説の流布」ですし、発信者の利益が絡めば「おまえがそうなって欲しいだけじゃねーか!」と思う人もいるでしょうが、SNSなどの普及したネットのオープンな情報社会では多かれ少なかれ発信者がどのような社会的利害関係にいるかは判明しているのですから、それを織り込んだうえで意見を見ていけば、「事実をどう正確にとらえるか?」などというロジカルシンキングごっこを見ているよりはるかにリアルで愉快で自分にとっても有益な情報になるのではないでしょうか?なにより言ってる本人がもはやドラマですからコンテンツのオリジナル性も高いわけです。

当面はテクノロジーに理解のある編集者がコンテンツビルダーとして重宝される状況が数年あり、その後はNewsPicks的なポジショントークを言える人たちをうまく取り込んだプラットフォームが生き残るのではないかと思います。

当然今後は、「ただ書く」、「ただ、情報をまとめて配信する」という中間機能は多少面白い切り口やインサイトを与えたくらいではほぼ無価値にちかづいてゆくでしょう。
僕が「プロブロガー」なるものに対して未来を見いだせない理由はここにあります。Webにおける情報配信で生き残るためには、書くこと、発信すること、纏めること以外のどんな強烈なポジションを持つかが重要になってきます。

例えば、病児保育を手掛けるNPOフローレンスの駒崎代表のツイッターやブログは本当に面白いです。
彼には明確なポジションがある。そして、彼はスタッフや組織にコミットしながら社会を動かそうとしています。
で、そんな彼から出てくる意見や文章は当然彼にとってのポジショントークであるわけですが、背景が明確であればポジショントークの方が「日本では欧米に比べて子育てに関する意識が〜」みたいな話を結論ありきの数字の分析結果をエビデンスにアマゾンから小銭をもらいながら上から語られるより面白いのは当たり前ですよね。

次の次のフェーズくらいには、Webのメディアはいろんなポジションを持った人たちの意見がバックボーンと共に集約されきれいにコンテンツ化されている付加価値のついたメディアと、一次情報をコンテンツ化するときに不明瞭なバイアスが掛けられている変わりに無料または逆にお金をもらって見るメディアに収斂されていくものと思われます。

おっと、もう一軸ありました。

「絶対にバイアスをかけない」という強烈なポジションを持って多様な一次情報も二次創作も集めまくってカオスにする。という軸で、別名ニコニコ基軸です。
ドワンゴの川上会長が発言されている内容を考えても、川上さんのポリシーにも見える競争を避けながら独自のポジションで生き残るという特殊なやり方です。

この軸は1〜4のステップで進行する「世の中の流れ」「ルール」を無視する、いや、逆らって自分の「ルール」を作り、社会の中で明確なポジションを持つに至らない人間の仕事に、ドラマに、生き様に価値を吹き込み無理やり居場所を作る為に生み出したやり方のようにも見えます。
かつて川上会長がニコニコニュースの編集に関して「言論の早稲田みたいな人がメディアとしてポリシーみたいなもんを持って情報を作るみたいなことは絶対に許さん。」みたいに珍しく自社内のやり方に本気で怒ってるような発言を何かでされていたのが「無編集、無バイアス、絶対的なカオス」が明確な戦略であることを裏付けています。

この辺は川上会長の「ルールを変える思考法 (角川EPUB選書)」やブログなどから読み取っています(僕が勝手に解釈している部分も多分にありますが)。

さて、最後にこれを書いている僕のポジションはシリコンバレーのオタクちゃん達が自分が宇宙に行きたいというモチベーションで地上の仕事を高速で破壊しまくる災厄から、なんとか自分が地上で自分の小さな幸せを守るというポジションです。

自分の考える未来像をネットに放り込んで、この話を誰がどう考えるかで自分自身が今後身を置くマーケット領域や現在の持ち場の稼げる賞味期限がどれくらいかをできるだけ正確に把握できればすごくメリットがあるのでやっています。

さて、そろそろお昼休みも終わりそうです。
まぁ未来の話もよいですが、まずは目の前のお仕事です。
我々にとって現在がなかなかしんどい状況なのはいつの時代も同じですが、幸いネットのおかげで情報がいろいろ手に入るようになりました。せめて苦労するなら過去の失敗の結果としての苦労より、未来の生き残りの要因としての苦労をしたいものですなぁ。
さて今日も持ち場で未来に思いをはせながら苦労するとしましょう。