Web系スタートアップに業界人はいらない

さて、前回のエントリに続いて新規事業、スタートアップネタです。

スタートアップや新規事業に取り組むに至っては社内、社外を問わず仲間を集めてチームビルディングを進めないといけないのですが、新卒、中途を問わずどういったバックボーンの人たちと一緒にやるのがいいのでしょうか?
また、僕らはどういうキャリアを目指すのがこのめまぐるしく変化する時代に一番安定した生活を送れるのでしょうか。

1.エリート型スキルと、プロフェッショナル型スキルの時代が同時に終焉しちゃった

WebやITがビジネスを加速させると言われて久しいです。大前研一御大のこれからのビジネスパーソンは「IT」「英語」「財務」が必要なスキルである。という話を聞いてからもう20年近い月日が経とうとしていますね。
この考え自体は本当に的を射ていると僕自身も思いますが、真に受けてしまうと困る点があります。
一つはこれら三つのスキルには終わりがありません。まぁどのスキルも奥が深い上に、トレンドもどんどん変化します。
つまり永遠にレベルを上げてゆくべきライフワークであり、競争相手も多いスキルであることを覚悟しないといけません。
この3つを極めている人がもしいるなら、そういう人はどんな会社でも役に立つとは思いますが、いずれにしても希少な人材であることは間違いなく、またお給料も高くて自分たちのポンコツ会社のへっぽこアイデアを手伝ってもらえると考えるのには無理があります。
また、そもそも、多くの会社はマッキンゼーでもなければ、マッキンゼーの劣化版ですらないということです。
様々な事業領域や企業に対して汎用的なスキルをベースに価値を提供するなどという方が特殊なあり方で、もっと戦場を狭めなければ勝てるものも勝てないのがビジネスの世界です。

一方、プロフェッショナルなスキルというのはどうかというと、これもまた微妙な世界になってきました。
WebやITの進化によって、あらゆる知やスキルがコモディティ化され、儲からなくなっています。儲からないということは逆に言えば食えるスキルレベルというのが格段に上がっているということです。

例えば、DELTROの坂本さんとムラケン君が作った無料アプリでROADMOVIESという大ヒットアプリ(http://matome.naver.jp/odai/2135316602330825101)がありますが、これを見せてもらった時に僕はスゴイと思ったと同時に、全国の結婚式のショートムービーを作っていた映像業者が軒並み商売あがったりになる時代が来るなと思いました。
実際、これでムービーをちょこちょこっと作ってイベントで流しているところに何度か出くわしたことがあります。これまでならちょっとしたカッコいいPR映像を作るなんてプロに頼まないといけませんでしたしそこにはいくらかのお金が動き、マーケットがあったはずです。それが消滅したことになります。

WebやITというのはそういう力を持っているのです。
参入されたプロフェッショナルの領域のマネタイズのハードルがアプリ一本で急に上がるのです。

技術領域というのは、極めるのに時間がかかりますが、所謂「職人」はどの分野でもトップオブトップしか食えない状況が加速すると僕は考えています。

なぜなら、シリコンバレーが大好きなオタクちゃんがやれることと言えば、「破壊的イノベーション」とか自己正当化しながら、トップオブトップのプロフェッショナルになれない中途半端なスキル領域で食べている人たちの仕事領域をシステムで置き換えてタダ同然でばら撒いて荒らして、目立つだけ目立ってから後からマネタイズを考えるというモデルであるからです。

2.競争力のあるチーム作りと、競争力になるスキルアップを考える

さて、現状のビジネス環境を人とスキルという観点から大まかに考えた上で、2つの立場からどうすればよいのか考えてみましょう。

①チームを創る側

>WebやITを絡めるなら異業種のプロが一番ポテンシャルがある。

WebやITの世界は歴史が浅く、ましてWebのメディア性などはまだ生まれたばかりと言えます。しかも動きが早い業界なので過去の蓄積が必ずしもモノを言わない世界ともいえるでしょう。
平たく言えば今からやっても系統だてて学べば一定の実務レベルに達するのに時間はかからないし、そもそも今出たばかりの技術やトレンドに関しては全員同じスタートトラインだということが起きえるということです。
ならば、その程度のことをドヤ顔で開陳している業界人は、学ぶ意欲のある素人があっという間に追いつき、追い越すことができるということです。
また、既に成功体験のある人は過去の成功体験に縛られ、アイデアが過去の延長上になりがちになります。この点も注意が必要です。
つまり、中途半端な業界人を入れても確かに初速の飲み込みが早かったり、コミュニケーションのロスは少ないというメリットはあるかもしれませんが、既に旬を過ぎた広がりのない人材を高いフィーを払って囲っている可能性があります。
逆に言えば、今はWebやITについては知らなくても他の何らかの分野の専門的なスキルがある人には無限の可能性があります。
彼らが将来生み出す〇〇×Webとか〇〇×ITという組み合わせは圧倒的に競合するスキルセットを持った人が少なく、事業性も高い可能性があるという直接的なメリットがあります。
また、直接の事業性は少なくとも、いろいろな職業人の世界には独特の「思考の型」があります。それをWebやITの世界に持ち込むことで新たな視点を生み出す可能性があります。

②チームに参加する側

>7年〜10年かけてその領域でプロになりまったく別の道に転進せよ

エリートビジネスパーソン or 職人 という2択で飽くなきスキル競争を繰り広げるのは個人の選択なので僕がどうこう言うところではありませんが、トップに近づけば近づくほど、努力では越えられない生まれ持ったセンスの壁を感じることになります。
問題はその壁を感じた時の選択だと思います。
その時にその業界の中堅くらいのポジションでなんとか食っていく道に甘んじるのか、それとも他のスキルにチャレンジして新たな付加価値を生み出すのかという選択です。
当然、前者の方が居心地はいいですし、不安も少ないですが、WebやITは前述した通りそういう領域を徹底的に破壊するつもりで狙いを定めています。それは傷ついた獲物が傷を癒そうとしているのを見つけて容赦なく寄ってタカって食らいつくハイエナのそのものです。

自分がビジネスの世界で生き残る為にリスクが低い選択は実は後者です。
そういう意味では、新卒からWebやITの世界に飛び込んだ人間は逆の意味で中途半端な業界人になった時に同じジレンマに陥ってることに気が付かないといけません。

私はキャリアの最初はプログラマーですが、ITと同時にメーカーの中のニッチな業務知識を来る日も来る日も盗み続けました。8年目に起業に参加した後は、システムを作りながら営業をして、クライアントの中のここぞと思う業界に関しては飛び込んで実務経験も積んできました。(例えば、医療関係の各種資格を保有しています。)
加齢黄斑変性の新薬開発ベンチャー アキュセラ社の窪田CEOはその著書「極めるひとほどあきっぽい」の中で興味深いキャリア論を展開されています。8年〜10年でまったく別のプロフェッショナルになる転進をせよ。そういう人が一番強いというのです。
これは僕もとても賛成で、むしろトップオブトップの起業家というより、自分の能力の限界に苦しむ人こそお手本にすべきキャリア観だと思います。

僕のチームは前職も学歴も多彩です。前職はWeb業界の同業他社の人は一人もいません。

元ハリウッド映画製作者、エロ本の編集長、住職、銀行員、アパレル販売員。なんでもありです。最初は苦労しましたが半年もあればWeb業界でなんとなく仕事していて、2年もすれば他の会社のイケイケ業界人より全然イケてると思います。
Webサービスを作れて、永代供養が出来る人間はなかなか居ないですよ。僕はキラキラ女子どころじゃない競争力を感じてます。

自分の会社が10年以上に渡ってWebやネットの業界で生き残ってこれたのはこの多様性のおかげだと本気で信じています。

キャリアは組み合わせることで強化されるということは言い古されて来たことかもしれませんが、なんだかんだで、チームビルディングする側もチームに参加する側もやっぱり億劫になりがちです。
プロフェッショナル受難の時代の生き残りに関しては「器用貧乏」という言葉は捨てた方が良いでしょう。
センスがある人はある領域でせいぜい7年〜10年もやれば超一流になっています。我々が7〜10年もかけてその領域に行かないならそこから10年やっても行かないものはいかないでしょう。
器用貧乏以前に7年その仕事に打ち込んで貧乏なら100年やっても貧乏ですよ。どうせ貧乏なら、2つ、3つできることがあった方がいくらかマシな評価がもらえるに決まってます。
そもそも唯一器用になった産業自体が消滅したら目もあてられません。

もし中途半端な実力である分野で自分に失望している方がこの先安定した生活基盤を築きたいと考えるなら、一定の期限を自分に定めて粘り強く持ち場の仕事で自分の極められる限界まで腕を上げて、まったく別の業界に転進するのが良いと思います。
その選択肢としては先でも後でもよいのですが、WebなりITを入れることはマーケットの広がりを考えるとかなり有効です。

まぁつまり、異業種転進組でWeb業界に入った自分としては、もっとそういう人が増えたらいいのになと思ってるということです。

人材、情報、広告業界人ばっかりが幅を利かせるWeb系業界では業界の国際競争力上も良くありません。

さて、僕は次はなんのプロを目指そうかな。靴職人もいいな、あと飲食も興味あるし、ワクワクしますね。

とはいえ今は持ち場で頑張るのが僕らのベストプラクティスです。
今日も持ち場でがんばりましょう。