何かを形にしたいなら起案者は苦労してはいけない

昔、何かのテレビ番組でさまぁ〜ずの三村さんが、「計画が具体化すればするほどテンションが下がって行く自分が好き」みたいな話を語っており、共感と共にすごく面白いなと思った覚えがあります。

三村さんの説明では、「野球チームをやろうという話を仲間内に言って、皆すごく盛り上がったりするんだけど、いざ、人数を集めないといけないとか、ユニフォームどうします?みたいな話が他の人から上がってくると、だんだんテンションが下がってきてしまう。そういうぐだぐだ感が好き」みたいな話だったと記憶しています。

これって、自分もこのタイプなのですごい良くわかるんですよ。

僕が普段から言ってる、「事業の成否はアイデアではなく実行フェーズが鍵。」「フォロワーシップ不在のリーダーシップでは組織は何も形にできない。」というのともちょっと関係あるのだけど、スタートアップや新規事業の立上げでは、初速の勢いを実行フェーズで起案者が失ってしまうパターンの所謂「新規事業中折れ空中分解」というのはよくあります。

勢いのあるビッグな経営者の本などを読むと、トップオブトップの起業家というのはやはりぶっ壊れていて、自分のアイデアの発案、実行計画策定、チームビルディングと組織化、マイルストーン設定と進捗管理、ローンチカスタマーの確保、リリースとPRなどまで一貫して絶倫で突っ走ってます。しかも、困難な状況になればなるほど、燃えたりするのもこの手の経営者によくあるパターンですね。
この点に関しては尊敬します。というかここまで来ると同じ人間とは思えません。

そうして彼らは、言います。

「元気があればなんでもできる!」
「この道を行けばどうなるものか、危ぶむなかれ。危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ。1、2、3、ダーーーー!」

僕は思うのですよ。これを目指すのかと。この人格と、バイタリティー

本来のゴールは事業の立上げであったはずで、がんばってこういう無限の体力、精神力を目指すドラゴンボール的な価値観を成功法則のように語るのはおかしくないかなと。

そういう意味ではやはり普通の人が何かを立上げようと思ったらチームでの仕事、組織の構築がチャレンジを具体化する最適な方法論だと思うわけです。

まずイケてるアイデアを思いついて盛り上がったら、仲間を集めたり、チームを作って役割分担すべきだと思うのですよ。

そして、起案した人はひたすら最期まで「盛り上がりとハイテンションを失わないことに務める係」となり、「プロジェクト化して具現化するために計画を立て、実行に移す係」とは分け、あまり実務の苦労をしない方がよいと思います。

世の中はアイデアを実現するためには障害が多すぎるので苦労は避けられません。
尋常ではない苦労は人の情熱に24時間365日冷や水を浴びせ続けます。それでも、実行者が諦めず具現化に向けた苦労を引き受けがんばり続けるためには掛け声をかけてくれる人が必要です。

ボート競技で言うところの「コックス」です。
コックス(COX)とはボートの進路方向を正すために舵を取り、漕手を引き締めるために檄を飛ばし、漕手を盛り上げていく選手のことを指します。そしてコックスはボートの上で唯一オールを漕ぐことをしない選手です。

起案者はコックスとなり「必ず実現できる!できたらすげーよ!みんなでやろーよ!俺たちならできるよ!」と実行者にあきらめさせない役割に徹する方がうまく行くと思います。

もちろん人数は実行者の方が多くなくてはいけません。
漕ぎ手よりコックスが多い船は前に進みませんし、どこに向かえばよいのかもわからなくなりますからね。

あと、コックスをたとえに出したので誤解の無いように言っておきますが、多人数で船を漕ぐ時には掛け声や太鼓などの合図が必要だという中世の奴隷船的な発想とは全く別ものです。ボート部の人たちに怒られますよ。
ボートでは漕手同士の動作を揃えるのは、漕手自身が訓練してやることだからです(ユニフォーミティというそうです)。
僕がいつも言うところのフォロワーシップです。

「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、 ほめてやらねば人は動かじ。」という言葉は役割分担がしっかり別れた軍隊を前提に司令官の心得を山本五十六が言ったもので、役割分担を弁えた人間が居ない状態で皆で手を出した挙句、全員で苦労しすぎてテンションダダ落ちになり空中分解をしては起案者のアイデアに巻き込まれた方も不幸というものです。

映画ソーシャルネットワークでは、ハーバードでイケてるエリートのウィンクルヴォス兄弟がどのクラブに所属していたか覚えてますか?
ボート部ですよ。
彼らは、フェイスブックのアイデアをあっためながらまずチーム作りをしてましたよね。決して自分でプログラムをするわけではない。彼らはフェイスブックの事業に関してはコックスの役割のつもりだったのではないでしょうか?

しかし雇われたはずのザッカーバーグが自分でプログラムして、事業として乗っ取ってしまう。

この話を見て、シリコンバレー大好きなコミュニケーション不全のオタクちゃんたちは、ザッカーバーグのやり方を真似しようとしますが、本来汎用的な事業立ち上げに関する成功確率が高いやり方はウィンクルヴォス兄弟の方のやり方と考えることはできないでしょうか?

ジョブズもザッカ-バーグも孫正義は確かにスゴイですし、彼らをまねて精神修業するのも勝手ですが、僕はむしろ彼らと自分は違う人間なんだということを前提にして、まず自分の能力と精神の限界を見極めて目の前の事業を形にする方が重要だと考えます。

僕ら漕ぎ手に回ることが多い非エリートは、可能な限り苦労を引き受けてトップや起案者が情熱を維持しやすい環境を作ること。
起案者やトップは、中途半端に雑務や苦労を引き受けて自分自身の中のアイデアへの情熱を失わないことが重要だと思います。

おっと、僕の隣で掛け声がかかりましたよ。
そろそろオールを漕ぐ時間ですね。

さて、今日も持ち場でしっかりオールを漕ぐとします。もちろん周りのみなと呼吸を合わせて。
僕は少なくとも非エリートが目的地に着くにはそれが一番早いと思っていますよ。

では今日も持ち場で頑張りましょう。